私たちが毎日食べているものは、健康にどのような影響を与えているのでしょうか。最近では、腸内環境と免疫、肥満、生活習慣病などの関係について、多くの研究が進められています。
そのなかでも注目されているのが、腸内細菌と大腸がんの関係です。
2026年8月、日本人の大腸がん患者を対象とした研究が、国際的な科学誌『Nature Genetics』に発表されました。この研究では、一部の腸内細菌が産生する「コリバクチン」という物質に関連したDNAの変化が、多くの大腸がん患者から確認されました。

さらに興味深いことに、1965年以降に生まれた世代では、その痕跡が多く確認されたことが報告されています。
1965年といえば、日本が高度経済成長期を迎え、食生活が大きく変化していた時代です。
肉類や油脂類の消費量が増え、インスタント食品、加工肉、ファストフードなども次々と普及していきました。
また、抗生物質の使用が広がったことによる腸内細菌への影響も、研究上の関心を集めています。こうした変化が、現在の腸内環境と何らかの関係を持っている可能性はあるのでしょうか。
今回は、最新研究を踏まえながら、日本人の食生活の変化と腸内環境、大腸がん予防のために意識したい食事について、管理栄養士の視点から解説していきます。
大腸がんと腸内細菌の関係が注目されている
私たちの腸内には、数多くの種類の細菌が生息しています。腸内細菌は、食べ物の消化や代謝に関わるだけでなく、免疫機能や腸のバリア機能などにも関係しています。
なかには、食物繊維を発酵させて身体に役立つ物質を作る細菌もいれば、条件によって健康に好ましくない働きをする細菌も存在します。
ただし、腸内細菌を単純に「善玉菌」「悪玉菌」の2種類に分類できるわけではありません。腸内細菌は互いに影響し合いながら、一つの複雑な生態系を形成しています。近年の研究では、この腸内細菌の働きが、大腸がんの発症過程にも関係する可能性が示されています。

コリバクチンとは?
コリバクチンは、特定の大腸菌などが産生する物質です。
DNAに損傷を与える性質があり、細胞の遺伝情報に変化を残すことが知られています。通常、私たちの細胞にはDNAの損傷を修復する仕組みが備わっています。
しかし、一部の損傷が修復されずに残った場合、遺伝子の変異につながることがあります。こうした変化が積み重なることは、がんが発生する仕組みの一つと考えられています。
ただし、コリバクチンを産生する大腸菌が腸内に存在するだけで、必ず大腸がんになるわけではありません。大腸がんには遺伝的要因、加齢、生活習慣、炎症など、さまざまな要素が関係しています。
2026年の研究でわかったこと
2026年8月に発表された日本人の大腸がん研究では、遺伝子解析などを通して、コリバクチンに関連したDNA変異の痕跡が調べられました。
その結果、解析対象となった非高頻度変異型の大腸がん患者の44.8%で、コリバクチンに関連する変異パターンが確認されました。
さらに、1965年以降に生まれた世代では、こうした変異の痕跡が有意に多く、特に若い年齢で大腸がんと診断された患者で目立つ傾向が報告されています。ここで大切なのは、1965年以降にコリバクチン自体が急増したと証明されたわけではないということです。
確認されたのは、あくまで過去にコリバクチンの影響を受けたことを示唆するDNA変異の痕跡です。また、この数値は大腸がん患者を対象とした解析結果であり、日本人全体の約45%がコリバクチンによって大腸がんになるという意味ではありません。
それでも、腸内細菌ががんの発症に関わる仕組みを考えるうえで、重要な研究成果といえるでしょう。
1965年から2000年に日本人の食生活はどう変わった?
1965年から2000年までの35年間は、日本人の食生活が大きく変化した時代でもあります。
かつての日本では、米を主食として魚、野菜、大豆製品などを組み合わせた食事が中心でした。
しかし、高度経済成長による所得の増加や食品産業の発展、流通の変化などに伴い、肉類、乳製品、油脂類などを利用する機会が増えていきます。

農林水産省の食料需給表を見ると、その変化がよくわかります。
35年間で変化した食品の供給量
| 食品 | 1965年 | 2000年 | 変化 |
| 米 | 111.7kg | 64.6kg | 約42%減少 |
| 肉類 | 9.2kg | 28.8kg | 約3.1倍 |
| 油脂類 | 6.3kg | 15.1kg | 約2.4倍 |
| 牛乳・乳製品 | 37.5kg | 94.2kg | 約2.5倍 |
| 小麦 | 29.0kg | 32.6kg | 約12%増加 |
| 野菜 | 108.2kg | 101.5kg | 約6%減少 |
| 果物 | 28.5kg | 41.5kg | 約1.5倍 |
※国民1人当たりの年間供給純食料。農林水産省「食料需給表」に基づく数値であり、実際に食べた量とは異なります。
注目したいのは、米の供給量が約42%減少した一方で、肉類は約3倍、油脂類と乳製品は約2倍以上に増加していることです。特に、脂質の供給割合は1965年から2000年にかけて大きく上昇しています。もちろん、肉や乳製品、油そのものが悪いわけではありません。
肉はたんぱく質や鉄、ビタミンB群などを含み、油脂も身体に必要な栄養素です。むしろ、食生活が豊かになったことによって、栄養不足の改善や多様な食品を食べられるようになったという利点もあります。
一方で、食品の種類や調理方法、食事の組み合わせが大きく変わったことも事実です。このような変化が腸内細菌の構成や働きに影響している可能性は、十分に研究する価値のあるテーマです。
加工食品やファストフードが普及した35年間
1965年から2000年の間には、食品そのものだけでなく、食品を購入する方法や食事のスタイルも大きく変わりました。その象徴ともいえるのが、レトルト食品、ファストフード、コンビニエンスストア、冷凍食品などの普及です。

日本の食生活を変えた主な出来事
| 年代 | 主な出来事 |
| 1960年代後半 | パン食やマーガリン、植物油を使う料理がさらに普及 |
| 1968年 | レトルトカレー「ボンカレー」発売 |
| 1970年 | ケンタッキーフライドチキンが日本に進出 |
| 1971年 | マクドナルド日本1号店が開店、カップヌードル発売 |
| 1974年 | セブン‐イレブン日本1号店が開店 |
| 1970~80年代 | ハム・ソーセージなど食肉加工品がより身近になる |
| 1980年代 | 冷凍食品やコンビニ弁当などの利用が拡大 |
| 1985年 | 粗挽きウインナー「シャウエッセン」発売 |
| 1980~90年代 | アスパルテームなどを使用した低カロリー食品が普及 |
| 1990年代 | ペットボトル飲料や調理済み食品の利用がさらに広がる |
これらの食品やサービスは、食事の準備を簡単にし、忙しい生活を支えるという大きな役割を果たしてきました。
一方で、従来の家庭料理とは異なる栄養バランスの食品を、日常的に選ぶ機会も増えていきました。例えば、加工肉を使用した食品や、脂質・塩分の多いメニューなどです。ただし、加工食品には非常に多くの種類があり、すべてを一括して健康に悪いと判断することはできません。
冷凍野菜、納豆、ヨーグルト、缶詰なども広い意味では加工食品に含まれます。
重要なのは、加工されているかどうかだけではなく、食品の栄養成分、加工方法、食べる頻度、食生活全体のバランスを考えることです。

腸内環境を整えるために意識したい「発酵性食物繊維」
ここからは、日常生活で取り入れやすい食事について考えていきましょう。腸内環境を整えるうえで、特に注目したい栄養成分が発酵性食物繊維です。食物繊維というと、便の量を増やしたり、便通を整えたりする働きをイメージする方も多いかもしれません。
しかし、食物繊維にはそれ以外にも、腸内細菌との関係で重要な働きがあります。
発酵性食物繊維とは?
発酵性食物繊維とは、腸内細菌によって分解・発酵されやすい性質を持った食物繊維のことです。私たちの小腸では消化されにくいものの、大腸に届くと一部の腸内細菌の栄養源になります。
そして、腸内細菌がこれらを発酵させる過程で、短鎖脂肪酸と呼ばれる物質が作られます。代表的な短鎖脂肪酸には、酪酸、酢酸、プロピオン酸があります。なかでも、酪酸は大腸の健康を考えるうえで重要な物質です。
酪酸が注目される理由
酪酸は、大腸の細胞にとって重要なエネルギー源の一つです。また、腸のバリア機能や免疫の調節、炎症反応などにも関わっています。
実験研究では、酪酸が細胞の遺伝子発現に影響を与え、一部のがん細胞の増殖を抑える作用なども報告されています。ただし、これらの研究結果が、そのまま人間の大腸がん予防効果を証明するわけではありません。また、発酵性食物繊維をたくさん食べれば、それに比例して酪酸が増えるとも限りません。腸内細菌の種類や働きは人によって異なるためです。
それでも、食物繊維を含む食品や全粒穀類を多く食べることは、大腸がんのリスク低下と関連するという研究結果が蓄積されています。
このことからも、食物繊維を不足させない食生活には十分な意味があると考えられます。

発酵性食物繊維を含むおすすめ食品
| 食品 | 主な特徴 | おすすめの食べ方 |
| 大麦・もち麦 | β-グルカンなどを含む | ご飯に混ぜる |
| オートミール | β-グルカンを含む | 朝食や雑炊に |
| 玉ねぎ | フルクタンなどを含む | スープ、炒め物 |
| ごぼう | イヌリンなどを含む | 煮物、きんぴら |
| バナナ | ペクチンなどを含み、熟度により成分が変化 | 朝食や間食 |
| 大豆・豆類 | 発酵される食物繊維やオリゴ糖を含む | 煮豆、豆料理 |
| 冷ましたご飯 | レジスタントスターチが増える場合がある | おにぎりなど |
※食品の品種、加工方法、調理、熟度などによって成分は変わります。すべての食物繊維が同じ程度に発酵するわけではありません。
おすすめは、一つの食品だけを大量に食べるのではなく、さまざまな食品から少しずつ摂取することです。例えば、普段の白米にもち麦を混ぜるだけでも、食物繊維の摂取量を増やすことができます。また、朝食にオートミールを取り入れたり、普段の料理にごぼうや玉ねぎなどの野菜を加えたりする方法もあります。
ただし、発酵性食物繊維は腸内細菌によってガスが発生しやすいものもあります。特に、お腹の張りや腹痛、過敏性腸症候群などの症状がある場合は、急に摂取量を増やすと不快な症状が強くなることがあります。体調を確認しながら少量ずつ増やし、自分の腸に合った食品を選ぶことが大切です。
腸内環境を整えるために今日からできること
ここまで、腸内細菌と大腸がんの関係、食生活の変化、発酵性食物繊維について解説してきました。では、実際にどのような食生活を意識すればよいのでしょうか。難しく考えすぎる必要はありません。
まずは、日常の食事で次のようなことを意識してみてください。
主食の一部をもち麦や大麦に変えてみる:白米だけでなく、もち麦などを組み合わせることで食物繊維を補いやすくなります。
野菜や豆類の種類を増やす:毎日同じ食品だけを食べるのではなく、体調に合わせてさまざまな植物性食品を組み合わせてみましょう。
加工肉を食べる頻度を見直す:ハムやウインナーが毎日の習慣になっている方は、魚、卵、大豆製品なども活用してみてください。
発酵食品を無理のない範囲で取り入れる:納豆、ヨーグルト、味噌などは、食生活の選択肢を広げる食品です。塩分や糖分などにも気を配りながら取り入れましょう。
運動習慣も大切にする:大腸がんの予防では、適度な身体活動を続けることも重要とされています。また、食物繊維を増やす際には、水分摂取や胃腸の状態にも気を配りましょう。
食生活の改善と大腸がん検診はどちらも大切
最後に、もう一つお伝えしたいことがあります。それは、どれだけ食生活に気をつけていても、大腸がんを完全に防げるわけではないということです大腸がんの発症には、年齢や遺伝的な要因、生活習慣など、さまざまな要素が関係しています。
そのため、食生活の改善とともに、適切ながん検診を受けることも大切です。日本では、一般的に40歳以上の男女を対象として、年に1回の便潜血検査による大腸がん検診が推奨されています。
便潜血検査で陽性となった場合は、精密検査を受けることが重要です。また、血便や便通の持続的な変化、原因不明の体重減少、貧血などがある場合は、検診の年齢を待たずに医療機関へ相談しましょう。
食生活を整え、検診や医療も上手に活用することが重要です。
まとめ|腸内環境を整えることは将来の健康づくりにつながる
1965年から2000年にかけて、日本人の食生活は大きく変化しました。米を中心とした食事から、肉類や油脂類、乳製品をより多く利用する食生活へと移り変わり、加工食品や外食も日常的になっていきました。
その一方で、2026年に発表された研究では、1965年以降に生まれた日本人の大腸がん患者において、コリバクチンに関連したDNA変異の痕跡が多く確認されています。こうした世代間の違いに、食生活や抗生物質の使用、生活環境などが関わっている可能性は考えられます。
ただし、現時点で原因が特定されたわけではなく、さらなる研究が必要です。
大切なのは、新しい研究結果に過度に不安を感じることではなく、現在わかっている科学的根拠を日々の生活に活かしていくことだと思います。そのためにも、発酵性食物繊維を含む食品を適度に取り入れること、加工肉を食べすぎないこと、さまざまな食品をバランスよく食べることを意識していきたいですね。
腸内環境は、特定の食品を一度食べただけで大きく改善するものではありません。毎日の食事や運動、生活習慣の積み重ねが、将来の健康につながっていきます。
無理なく続けられることから、少しずつ始めてみてはいかがでしょうか。
参考文献・出典
- Shiba S, et al. (2026). Prevalence and chronology of colibactin-associated mutational processes and their microbiome spectra in Japanese colorectal cancer. Nature Genetics.
https://www.nature.com/articles/s41588-026-02692-x - 農林水産省「平成14年度食料需給表の概要」
https://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/sesaku/10/pdf/sanko5.pdf - Baldanzi G, et al. (2026). Antibiotic use and gut microbiome composition links from individual-level prescription data of 14,979 individuals. Nature Medicine.
https://doi.org/10.1038/s41591-026-04284-y - World Cancer Research Fund「Limit red and processed meat」
https://www.wcrf.org/research-policy/evidence-for-our-recommendations/limit-red-processed-meat/ - 国立がん研究センター「大腸がんの予防・検診」
https://ganjoho.jp/public/cancer/colon/prevention_screening.html - World Cancer Research Fund「Wholegrains, vegetables and fruit and the risk of cancer」
https://www.wcrf.org/wp-content/uploads/2024/10/Wholegrains-veg-and-fruit.pdf
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堀越 準矢(管理栄養士・健康運動指導士)
管理栄養士・健康運動指導士として、運動・栄養・整体を組み合わせた健康づくりをサポート。企業や自治体で年間100回以上の健康セミナーや栄養・運動指導を行い、肩こり・腰痛予防、高齢者の健康づくり、生活習慣病予防など幅広いテーマで活動しています。
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